【吸収率だけでは不十分?】筋肉をつけたい人がまず知るべき「たんぱく質代謝」の真実
- 7月28日
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更新日:6 日前
最近、「吸収しないと意味がない」と謳うプロテインや高機能たんぱく質食品をよく見かけるようになりました。たしかに、消化吸収されなければ筋肉にはなりません。吸収率が高いということは、それだけアミノ酸として体内に取り込まれる量が多い、という意味であり、重要な要素のひとつです。
しかし、それだけで本当に“筋肉がつく”と言えるのでしょうか?
たんぱく質は、腸管で吸収されたあとにようやく、体内の代謝ネットワークに組み込まれていきます。つまり、「吸収されたあとに何が起きるか」こそが、筋肥大を左右する本質的なポイントなのです。
しかもここで忘れてはならないのが、筋肉は「作る」こと以上に、「壊されない」ことの方が圧倒的に難しいという事実。

本記事では、
なぜ吸収率だけでは不十分なのか
なぜ筋合成(アナボリズム)と筋分解(カタボリズム)は同列に語れないのか
そして、筋肥大の鍵は“アンチカタボリズム”にあるという視点
これらを、科学的根拠を交えてわかりやすく解説します。
たんぱく質の「吸収率」とは何か?
腸管からの取り込みが「吸収」
食品に含まれるたんぱく質は消化され、小腸でアミノ酸に分解されて吸収されます。
この「吸収率」は、どれだけアミノ酸が血中に取り込まれたかを示す指標です。
しかし、吸収されたアミノ酸が必ず筋肉に使われるとは限りません。
📘参考文献:Boirie, Y. et al. (1997). Slow and fast dietary proteins differently modulate postprandial protein accretion. Proc Natl Acad Sci USA.
アナボリズムとカタボリズムは対等ではない
非対称な代謝構造に注目せよ
筋合成(アナボリズム)は、運動・栄養・ホルモンなどの条件が整わないと進みません。 ➡ 条件付きの「能動的プロセス」
筋分解(カタボリズム)は、常に作動している恒常的プロセスです。 ➡ 「何もしていなくても」筋肉は少しずつ削られていく。
❗ この非対称性こそが、筋肉を維持・増やす上での最大のハードルです。
吸収後の命運を分けるアナボリック経路
mTOR:筋合成の司令塔
活性化の鍵はロイシン、インスリン、レジスタンストレーニング。
mTORが筋合成関連遺伝子のスイッチをONに。
📘参考文献:Drummond, M.J. et al. (2009). The role of mTOR in the regulation of skeletal muscle mass. FASEB J.
筋衛星細胞の活性
筋損傷により活性化され、筋線維に融合。
筋繊維の核数が増えることで、合成力を上げる。
📘参考文献:Charge, S.B. & Rudnicki, M.A. (2004). Cellular and molecular regulation of muscle regeneration. Physiol Rev.
壊される筋肉:カタボリズムの現実
ミオスタチン:筋肥大の“天井”を決める因子
遺伝的に筋肉量を制御するホルモン。
EPAやトレーニングで抑制可能だが、完全に消すことは困難。
📘参考文献:McPherron, A.C. et al. (1997). Regulation of skeletal muscle mass in mice by a new TGF-β superfamily member. Nature.
ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)
筋たんぱく質に「分解マーク(ユビキチン)」をつけ、プロテアソームで処理。
特に過剰な筋肉は「エネルギー的に不要」と見なされやすい。
📘参考文献:Bodine, S.C. et al. (2001). Akt/mTOR pathway is a crucial regulator of skeletal muscle hypertrophy and atrophy. Nat Cell Biol.
HSPがいなければ筋肉は形にならない
ヒートショックプロテイン(HSP)の役割
合成されたたんぱく質が**正しい構造(四次構造)**を取るために必須。
特にHSP70、HSP90が筋再生・修復に関与。
📘参考文献:Senf, S.M. et al. (2008). HSP70 inhibits NF-κB and Foxo3a-mediated transcription during muscle disuse atrophy. FASEB J.
HSPを活性化するには
温熱刺激が必要(入浴、サウナ、ウォームアップ)。
「冷えないように心がける」ことが筋合成の前提条件となる。
【戦略】筋合成よりも、まず“分解抑制”を優先せよ
筋肉を守れなければ、つける意味がない
優先順位 | 内容 | 具体策 |
① アンチカタボリズム | ミオスタチン抑制 / UPS抑制 | EPA、睡眠、HSP、コルチゾール管理 |
② アナボリズム促進 | mTOR活性 / 衛星細胞 | ロイシン、筋トレ、糖質摂取、温熱刺激 |
🧠まとめ:筋肉は「作る」より「壊させない」方が難しい
たんぱく質の吸収率は確かに重要です。しかし、真に大切なのは:
吸収されたアミノ酸を筋合成に導く環境を整えること
そして、分解されないように防御すること
筋合成は「条件が整って初めて成立する能動的反応」であり、筋分解は「止められない生理的恒常性」です。
だからこそ、筋トレ愛好家がまず取り組むべきは「アンチカタボリズム」なのです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。これからも「心と体を守る健康情報」を発信していきます。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。