骨格差を活かしたスクワットのやり方|大腿四頭筋・大殿筋を狙い分けるコツ
- 1 日前
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多くのトレーニング愛好家が、筋トレを学ぶ際に陥りがちな思い込みがあります。
それは、「種目名 + 強化部位」をセットで覚えてしまうことです。
「スクワットは前ももの種目」
「ワイドスタンスは内転筋」

もちろん、大まかな傾向としては間違いではありません。しかし、「同じフォームでスクワットしているのに、友人とは疲れる場所が全然違う」という経験はないでしょうか?
実は、そこには「個体差(骨格)」という物理的な要因が関係しているのです。
重要なのは、自分の骨格(脚が長い人/短い人)を念頭に置き、鍛えたい部位(前もも/お尻)に合わせてスタンス幅やフォームを選ぶことです。
今回は、バイオメカニクス(生体力学)の視点から、「なぜ同じフォームでスクワットをしても、疲労する部位が違うのか」、そして「自分の骨格と目的に合わせてどうフォームを選べばいいのか」を分かりやすく解説します。
目次
1. スクワットで鍛えられる主な筋肉
スクワットで主に鍛えられるのは、以下の2つの筋肉です。
大腿四頭筋(前もも):膝を伸ばす筋肉。太もも前面の太さやパワーを作る
大殿筋(お尻):股関節を伸ばす筋肉。ヒップアップや後ろ姿のシルエットを作る
どちらをメインターゲットにするかで、最適なスタンスとフォームが変わります。
「スクワット=なんとなく脚全体」ではなく、「前ももを太くしたいのか、お尻を鍛えたいのか」という目的を先に決めることが、効率的なトレーニングの第一歩です。
2. 重さだけじゃない。「トルク」が筋肉への本当の負荷
トレーニングの負荷を、「バーベルの重量」だけで考えていませんか?
実は、筋肉にかかる本当の負荷は、「トルク(回転力)」で決まります。
ここで重要なのが「モーメントアーム」です。

モーメントアームとは、簡単に言えば「体を横から見たとき、関節の中心から、重りの真下にある線までの水平距離」のことです。
この距離が長いほど、その関節を動かす筋肉への負荷が大きくなります。
関節にかかるトルク(負荷)は、次のシンプルな式で表せます:
トルク=重さ×モーメントアーム
つまり、同じ重量でも、関節から重心線までの距離が長いほど、その関節を動かす筋肉への負荷は大きくなるのです。
例えば100kgを担いだとき:
重心線(バーベルの真下)から股関節までの距離が、重心線から膝までの距離よりも長い=重心線から股関節の方が遠い
→ 股関節トルク大(お尻に効く)
重心線(バーベルの真下)から股関節までの距離が、重心線から膝までの距離よりも短い=重心線から膝関節の方が遠い
→ 膝関節トルク大(前ももに効く)
この物理法則は、誰にでも平等に働きます。
3. 「脚が長い人」と「短い人」の違い
では、スクワット(ミディアムスタンス)を例に考えてみましょう。
ここに、身長は同じでも「脚が長い人」と「脚が短い人」がいます。二人が同じフォームでしゃがんだとき、体の中で何が起こるでしょうか?
なお、実際には「太ももと脛の長さ比」「胴体の長さ」「足首の柔軟性」「バーの担ぐ位置」なども影響しますが、ここでは最も分かりやすい「脚の長さ」を中心に説明します。

A. 脚が長いタイプの場合
脚が長い人が、バーベルの重心を足裏の中央(ミッドフット)に維持してしゃがもうとすると、構造上、お尻を大きく後ろに突き出し、上体を深く前傾させる必要があります。そうしなければ後ろに倒れてしまうからです。
この時、モーメントアームはどうなるか?
膝関節から重心までの距離:短い
股関節から重心までの距離:非常に長い
つまり、標準的なフォームでは、本人がどれだけ「前もも」を意識しようとも、物理的にはお尻・ハム優位の種目になりやすいのです。
結果として:
お尻(大殿筋)、裏もも(ハムストリングス)への負荷が大きい
前もも(大腿四頭筋)への負荷は小さめ
B. 脚が短いタイプの場合
一方、脚が短い人が同じく足裏中央に重心を乗せてしゃがむ場合、股関節が自然と前方に位置しやすく、上体の前傾は浅くて済みます。
この時のモーメントアームは:
膝関節から重心までの距離:長い
股関節から重心までの距離:短い
構造的に、膝優位となり、前もも(大腿四頭筋)へ強烈な刺激が入りやすい傾向があります。
4. 骨格×鍛えたい部位でフォームを選ぶ
ここからが重要なポイントです。
スクワットは、自分の骨格と鍛えたい筋肉に合わせてスタンスとフォームを選ぶエクササイズです。
「教科書通りのフォーム」を無理に真似るのではなく、「自分の体で、狙った筋肉を効かせられるフォーム」を見つけることが最優先です。
パターン① 脚が長い人が「前もも(大腿四頭筋)」を鍛えたい場合
関節可動域や筋の柔軟性に問題がない場合、以下の調整で膝関節トルク(前もも負荷)を増やすことができます。
基本戦略:上体を起こして膝を前に出す
ワイドスタンスを試す:足幅を肩幅より広めにすることで、股関節の詰まり感が減り、上体を起こしたまま膝を前方に出してしゃがみやすくなります。結果として膝関節のモーメントアームが長くなり、前ももへの負荷が増えます。
かかとの下に板やシューズを使って高さを出す:足首の背屈を補助し、脛を前に倒しやすくすることで、膝を前に出して深く曲げられるようになります。
フロントスクワットに変える:バーが前に位置することで、自然と上体が立ち、膝優位のフォームになりやすくなります。
レッグプレスやハックスクワットなどマシン種目を使う:膝伸展動作をアイソレートしやすく、骨格的な制約を受けにくい種目です。
可動域・柔軟性に制限がある場合
もし足首や股関節の可動域が狭い場合は、フォーム調整の前に可動域改善が優先課題になります。
足首背屈のストレッチやモビリティワーク
股関節屈曲の柔軟性向上エクササイズ
ヒールの高いリフティングシューズの活用
可動域が改善すれば、上記のフォーム調整がより効果的に機能します。
パターン② 脚が長い人が「お尻(大殿筋)」を鍛えたい場合
もともと股関節優位になりやすい骨格なので、基本フォームでも十分お尻に効きやすいです。
さらにお尻への負荷を増やしたい場合:
ミディアム〜ややナロースタンス:お尻をしっかり引いて股関節を大きく曲げる
ローバースクワット:バーを低めに担ぎ、上体を前傾させて股関節優位にする
ルーマニアンデッドリフトやヒップスラスト:股関節伸展をアイソレートできる種目を選ぶ
パターン③ 脚が短い人が「前もも(大腿四頭筋)」を鍛えたい場合
もともと膝優位になりやすい骨格なので、基本フォームで十分前ももに効きやすいです。
さらに効かせたい場合:
ミディアム〜ややナロースタンス:膝を前に出しやすくする
ハイバー/フロントスクワット:上体を立てる
レッグプレスやレッグエクステンション:アイソレート
パターン④ 脚が短い人が「お尻(大殿筋)」を鍛えたい場合
膝優位になりやすい骨格なので、意識的に股関節トルクを増やす必要があります。
ワイドスタンス:お尻を強く引いて股関節を大きく曲げる
ローバースクワット:バーを低めに担いで上体前傾を増やす
ルーマニアンデッドリフトやヒップスラストなどお尻特化種目を選ぶ
フォーム確認のポイント
自分のフォームが実際に膝優位か股関節優位かを確認するには、横から動画を撮ってチェックしてみましょう。
しゃがんだとき、バーの真下の線に対して膝がどれだけ前に出ているかを見ることで、膝関節のモーメントアームの長さを視覚的に把握できます。
5. まとめ:自分の骨格×目的でフォームを決める
筋トレで大切なのは、「教科書通りのフォーム」を完璧に再現することではありません。
自分の骨格(脚が長い/短い)を理解し、鍛えたい部位(前もも/お尻)に合わせてスタンス幅とフォームを選ぶことが最も重要です。
スクワットで「どこに効くか」は、骨格(脚の長さ、胴体の長さ、関節の柔軟性など)で変わる
筋肉への本当の負荷は「重量」ではなく「トルク(重さ×モーメントアーム)」
脚が長い人はお尻・ハム優位、脚が短い人は前もも優位になりやすい
自分の骨格(長脚/短脚)×鍛えたい部位(前もも/お尻)の組み合わせでスタンスとフォームを選ぶ
脚が長い人が前ももを鍛えたい場合:ワイドスタンス+上体を起こす、かかと高め、フロントスクワット、マシン種目
可動域や柔軟性に制限がある場合は、まずその改善が優先課題
横から動画を撮って、膝がどれだけ前に出ているかを確認する
万人共通の「完璧なスクワットフォーム」は存在しない
「スクワット=前ももの種目」という固定観念を捨て、自分の体の特性と、何を鍛えたいのかという目的を明確にすること。
それが、効率的に理想の体を作る第一歩です。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。これからも「心と体を守る健康情報」を発信していきます。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。






